PASのブログ

PASの中の人が書く雑記ブログです。

歪みとはなんなのか

今回もちょっと難しいけど役に立ちそうな話題です。

「そもそも歪とはなんなのか」 について、簡単にまとめましたのでご一読いただければ幸いです。

数学などの知識が必要なので、あまりまとめられているサイトは無いようです。 できる限り平易に書いていきますのでよろしくおねがいします。

歪を数字で表してみると

まずは、歪というものを定量的に理解しておきましょう。

全高調波歪(ぜんこうちょうはひずみ、英: total harmonic distortion、THD)あるいは全高調波歪率とは信号の歪みの程度を表す値(あたい)。高調波成分全体と基本波成分の比で表す[1]。単に歪率(ひずみりつ、英: distortion factor)とも呼ぶ。 全高調波歪の値が小さいほど歪みが小さいことを表し、オーディオアンプやD-Aコンバータなどの様々な電子機器や電子部品の性能を表すために使われる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

Wikipedia先生の表現は正確ですがわかりにくいので、平易に書きますと、

原音と、加工後の音の歪みを数字で表したもの、具体的には、歪んでできた波形から、原音の波形を引き算して、それを電圧で割ると「率」がでる

ということです。 全高調波歪以外にも歪みの種類はありますが、一般的に「歪み」と私達が言っているのは、全高調波歪のことです。

計算式で書くと

{\displaystyle {\mbox{THD+N}}={\frac {\sqrt {V_{2}^{2}+V_{3}^{2}+V_{4}^{2}+\cdots +V_{n}^{2}+N^{2}}}{V_{1}}}}

ですね。全く歪みがないものはこう書けます。

{\displaystyle {\mbox{THD}+ {N}}={\frac 0{V_{1}}}}= 0

頭が痛くなりそうですけど、計算式はこれでおしまいです。

高調波とはなんなのか

高調波とは、基本の周波数に対し、その整数倍の周波数をもった複数の正弦波を合成したものです。この整数倍の周波数の正弦波をもつ信号を高調波と呼びます。

ここでは基本の波形は、高調波を持たない正弦波を例に挙げます。

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正弦波

この信号を、周波数別に見るとこうなります。(緑の線をご覧ください。)

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正弦波の周波数特性

今回の場合、もとの信号は1kHzですので、ご覧のように、1kHzの部分が飛び出していますね。

では、ふんだんに高調波を含んだ波形を御覧ください。 当店のオリジナル商品、Olive Drabのゲインを目一杯合わせて、音量は同程度にしたものです。

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Olive Drabの波形
同じくこれの周波数特性はこんな感じです。
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Olive Drabの周波数特性

ちなみにOlive Drabは、カッティングなどによく合うように設計したオーバードライブで、ゲインをフルにするとレイヴォーン風ソロまで対応できる優れものです(広告)

音色とはなんなのか

一説によると、歪み系エフェクターは、そもそも、ギターでサックスのような音を出すために開発されたそうです。(出典は失念しました。。)

音色の波形とは、振幅スペクトルと位相スペクトルで決定します。 現実的には音程と、波形と、音量変化で決定されていると言っても良いかもしれません。

非常にざっくりいうとこんな感じになります。

波形は、どの周波数にどのくらいの音量で、どれくらいの位相で出すかで決定する。 その波形に音程をつけて、音量変化を定義すると、「音色」になる。

例えて言うならば、まず音量変化から説明しますと、ピアノやギターは弦を叩いて鳴らしますので、アタックの瞬間に音量が大きく、次第に小さくなりますが、それに対して管楽器は、息を吹き続ける限り、音量は一定です。

波形に関しては、ギターの場合、アタックの瞬間はピックや指と弦が擦れたり、ボディが鳴ったりしますが、音量が小さくなるにつれてそれらは収まり、現本来が揺れる音だけになります。この音は、音叉などと同じく、限りなく正弦波に近いものです。

音程に関しては、ギターの場合、高いフレットを押さえるほど弦長が短くなりますので、音は高くなります。また、その分、振幅は小さくなるのでサステインは落ちます。

例えばですが、ギターの「音が次第に小さくなる」時間を、「限りなく伸ばす」だけで印象が変わります。

前述の、「ギターの音をサックスのようにする」という目的においては、一つには「音を伸ばすこと」という条件が入るというのは、ご理解頂けると思います。

エフェクターは計算機である

最近デジタル機材の設計を初めてやっと腑に落ちたことがあります。 オペアンプというネーミングです。 英語でOperational Amplifier、訳すと演算増幅器です。 当初はミサイルの軌道計算などに作られた真空管回路を、使いやすいようにバッケージングしたのがはじまりです。 現在では、計算用途としてはPCがあるので内部のデジタル的な構造で計算することがほとんどですが、PCにしてもパーツパーツを分解すると、トランジスタなどの増幅器の塊です。

音にしても、映像にしても、オペアンプトランジスタ真空管などの電子回路を使って、増幅したり変化させたりしていますが、これはまさに、計算しているのです。

このようにして、サンプリング方式以外の(シンセ)音源は出来ています。 音程と、波形と、音量変化のパラメータを作って保存しておくのです。

エフェクターの場合はリアルタイムで計算をします。

○音を大きくする。
○一定以上の音量には制限をかける。
○ある周波数をカットまたはブーストする。
○位相を変える。
○波形を変える。
○一旦音を保存して一定時間の後に再生する。

これらを組み合わせると、大抵のものが出来ます。

ブースター
歪み系
ディレイ
コーラス
フランジャー
ワウ
バーブ
EQ
アンプ

全部上に書いたような動作だけで実現します。
エフェクターは計算機なのです。

デジタルとアナログ

2020年現在においても、完全に音質面においてアナログに追いついたデジタル機材は存在していないかもしれません。 これは、アナログは切れ目がないのに対して、デジタルの場合は離散的で切れ目があるという点が一つ、もう一つは、アナログ特有の「作った回路が違うこともやってしまう」という点が必ずしもデメリットになっていないことが上げられます。

つまり、例えばですが、音量をあげようとしたら、音量を上げるにつれてカットオフ周波数(此処から先は減衰しろという境目)まで変わってしまったり、物理的に望まない特性まで部品の一つ一つにある(抵抗なのにコンデンサ成分を持っている等)により、意図しない動きをすることがあるからです。

離散的な扱いに関しては、将来的に速くて膨大な処理ができるデバイスが登場したらどんどんデジタルとアナログの境目は無くなるのだと思われますが、「意図していない動作をする」部分は、現在も多くのメーカーが挑戦をされており、また、全く違う考え方(IRや、サンプリングという概念)で実現しようとする流れがあります。

もう一度「音色とは何か」を考える

このような流れで、音という空気振動を、電気で扱う取り組みがされているということはおわかり頂けたかと思います。 翻って考えると、電気になった段階で既に空気振動ではありませんので、弦を弾いて管楽器の音が出たり、笛を吹いて太鼓の音が鳴っても、何ら不思議はありません。 更に進めば、「人が演奏すること」なく、楽器が鳴っても良いわけで、だからこそDTMというジャンルが発展してきた歴史もあるわけです。

そうなると、「この音は何の楽器なのか」と考えること自体、意味を失います。 既に、現実の世界では存在しない音色が数多くシンセ音源に収録されていますし、未来では逆に「全く人間が演奏したものと同じ」音源が登場してくると思います。
聞き手、又は演奏家が「この音は〇〇の音だ」と感じるというのが唯一のものさしだと考えます。
歪み率が何%以下ならいいとか、そんなレベルの話では既に無いと考えます。

原音再現性を追求する意義

オーディオにしても、楽器機材にしても、「いい音を追求する」という目的は同じですが、では果たして「いい音」とは何なのでしょうか?

あるオーディオ愛好家はこう言います。
「目の前に、オーケストラが本当に演奏しているよう聞こえるアンプが最高のアンプだ」
仮にこれをゴールだとして、以下のように設計したとします。

○入力された音源(例えばCD)の音を歪み率0%で出力する。

これで目の前にオーケストラは現れると思いますか?
僕は思いません。収録時のマイクやミックス、マスタリングや、再生時のスピーカーや部屋の環境に影響されるからです。
マイクやスピーカーが完全なものになったとしても、現れるんですかねえ?

どうスピーカーを駆動するのか、どうマイクの特性を消すのか、そういうブラッシュアップを繰り返して、追求し続けるのが設計者だと思っています。

楽器の世界はもう少し複雑です。
「いい音の定義」は無いですからね。

この話題はもう少し続けたいです。続編にご期待ください。

まとめ

かなりとっちらかりましたが、今回の主張としてはこうです。

○歪み率と「いい音」というのは直接関係しない
○「その音が何の音か」は聞き手が決めることで、一定の定義をする必要性がない
○原音再現=歪み0%というのは正確ではない。

次回にご期待ください。